ネオたぬ記

読んだ本の感想。見聞きしたこと。

年末読書

あわただしかった一年がようやく終わります。

 

これまで忙しいから、と読まずにいたいろんな本に目を通せたのはとてもいい経験でした。普段アンテナはってないとそもそも情報が入ってこないですし。いまは読みたい本が大量にあります。急ぐわけではないから、極力図書館を利用して読んでいこうと思います。年末に読んだのは好きな著者2人の本でした。

 

高野秀行『怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道』2007年

結論を含めて要約すると、「探検がしたくてしたくてしょうがなくなった高野秀行が、ネット上で話題になっていたインドの怪魚の情報に大興奮。探検の準備をして出発するも、とある事情でインドへの入国すらできずに帰国」という話です。怪魚を見つけられなかったどころか現地にすら到達できていないのですが、十分に面白い本でした。さすが高野秀行です。準備をするところからが探検なのです。第一発見者から話をきけないか?現地でコミュニケーションをとるために何語を学べばいいのか?現地の人々に(自分たちですら正確な姿かたちを理解していない)怪魚のことをどうやってたずねればいいのか?この魚は本当に存在するのか、するとしたらその発見には価値があるのか?ネット上の情報をもとに日本で著者がすすめる探検の準備から面白い。

ちなみに著者は、インド行きたさ(と手持無沙汰)で日本で神頼みの自転車旅行に出かけ、それも1冊の本にしています。『神に頼って走れ』ですが、こちらもいい作品。結局高野さんの作品は何をしてても面白いんだよなぁとか思っちゃうわけで、実際自分は『異国トーキョー漂流記』が大好きなんですが、探検家高野秀行も正しく堪能すべく、次は『西南シルクロード…」あたりでも読もうかなとか思っています。

 

金城一紀『フライ、ダディ、フライ』2005年

 金城一紀ゾンビーズシリーズの2冊目。47歳妻子持ちサラリーマンのひと夏の物語。第1作にも出てくる朴舜臣が準主役でかっこいいのです。1冊目の『レヴォリューションNo3』よりなんなら好きかもしれません。著者のほかの作品にも共通する、支配・管理への闘いが描かれていますが、本作では「外」の敵以上に、半径1メートルの世界に自分を置き、様々な「限界」を受け入れてしまっている自分自身との闘いがおしだされています。肉体的なものを含めて強くなること、抵抗すること、他から与えられ自分で受け入れてしまった限界を超えること、自由になること。自由に飛び立つこと。著者の中ではこれらは一続きになっているように感じます。レヴォリューションNo.3の書き下ろし「異教徒たちの踊り」なんかとシリーズになっている意味がよくわかりました。

そういえば在日朝鮮人朝鮮学校生が「武闘派」であるというイメージは、自分の世代にはあまりないかもしれません。「朝鮮学校=スポーツが強い」みたいなイメージはありますが。著者の作品には、朴舜臣がその象徴となることで、「武闘派」の面がかなり強く出ています。『Go』もですね。自分の知り合った在日の友人たちは、積極的にであれ消極的にであれ、意識的にであれ無意識的にであれ、日々「闘い」の中にいることを感じさせる人たちが多かったのですが、やはり金城一紀が描いている闘い、抵抗のイメージとはちょっとぴったりきません。この辺りは世代差なんでしょうか。

ただ、今の自分にはなんともぴったりくる作品でした。主人公の47歳が、朴舜臣のもとでトレーニングをして生まれ変わっていく様。今年最後の1冊に読んで本当に良かった。強くなる、不安をねじ伏せる、限界を克服する、自由になる。

とりあえずジョギングとか始めちゃおうかな。

 

すごく大変な一年でしたが、いい一年でもあったことは今後も忘れないようにしたいと思います。