ネオたぬ記

読んだ本の感想。見聞きしたこと。

民主主義のためのコスト   読んだ:瀬畑源『公文書管理と民主主義』

なかなかまとまった量の文章を読めない。

ので、読めるものから。

 

瀬畑源『公文書管理と民主主義 なぜ公文書は残されなければならないのか』(2019年)

公文書管理と民主主義: なぜ,公文書は残されなければならないのか (岩波ブックレット) | 源, 瀬畑 |本 | 通販 | Amazon

日本の公文書管理、情報公開制度問題で発信を続けている歴史学者による講演録。単著、共著はほかにもあるが、講演録を手軽に読めるのはとてもありがたい。定価600円もしない本書も含め、ブックレットや新書の類は日本の宝だと思います。

4~5年前にニュースを騒がせた森友学園問題とイラク日報問題を入口に、日本の公文書管理の問題、課題を扱っています。

 

ダメな官僚がいたから問題が起きたのか?

この本のいいところは視野の広さ。それぞれの事案でたまたま悪い政治家やひどく怠惰な一官僚がいたという話ではないのだ、ということが強調されています。

強調されているのは官僚機構とは何なのかということ。情報公開請求に対応する官僚側の手間や、そもそも官僚は情報を独占したがる傾向をもつものであることが指摘されています。個人ではなく、制度・組織の問題であると。2つの事件の後始末のダメさ加減には政権固有のものがあるにしても、公文書管理の杜撰さ自体は、主として日本における官僚機構(のクセ)を制御する仕組みの弱さの問題として本書では把握されています。官僚機構とはなにか、を理解したうえでそれを制御する仕組みを考えろ、というわけです。またなぜ特に日本では公文書管理が重視されてこなかったのかについても、明治以来の日本の国家機構の歴史的経緯から説明しています。

本書では情報公開法や公文書管理法の意義と改善点の指摘、公文書管理のための新たな機構の必要などの具体的な提案もされていますが、話のスジがはっきりしているため大変わかりやすかったです。

 

民主主義のコスト

世間を騒がせたイラク日報問題、森友学園問題から約5年。わずか5年でこれらの事件、日本の行政・政治上の問題点はおそらく多くの人の脳裏から消えつつあるでしょう。というか僕自身ももはや詳細は思い出せません。

多くの人が事件を忘れていくことそれ自体、公文書管理と情報公開制度の重要性を示すものでしょう。官僚や政治家の善意に期待してもいけないように、一生活者の記憶力や注意力にも期待しすぎてはいけません。情報公開請求それ自体は、もしかしたら一部の根気強い市民や専門家によってしか使いこなせないかもしれません。しかしだからこそ、それらの人々の取り組みが実るように、法整備や機構整備が必要です。その有無が民主主義を左右するからです。

民主主義はコストがかかります。公文書管理を担うたくさんの公務員を雇うお金、また情報公開制度等を活用するための時間・お金、話し合う時間。民主主義にはコストがかかることを認めることが大前提ですが、他方で可能な限り生活者の日常的なコストを下げるための法整備、環境整備も必要です。そして実は、市民運動、学者、メディア等が自由に活動できるための環境づくりは大変コストパフォーマンスのよい方法なのではないかと思ったりするわけです。

 

 

読書力が落ちてるいまだと、ブックレットはとてもよいです。いろいろ探してみようかな。