ネオたぬ記

読んだ本の感想。見聞きしたこと。

誰が、どこで子育てをしているか

2週間の妻の仕事ラッシュ最終日、夕方の陽が落ちる前から駅近くで合流し、ハンバーガーを食べにいきました。僕の胸元には、だっこ紐のなかですやすや眠る坊。場所は駅から歩いて5分強の、数年前に作られた複合施設。チェーン店ではないし、広い意味でのグルメバーガーの一種なのでしょうが、値段はそう高くない。自分たちがこの店を気に入ってるのは、美味しさ以外に、天井が高くスペースが広いこと、音響がよく音楽がきもちいいこと、そこまで混みまくってはいないことなど。むしろ味はその日によって肉の質が良かったり悪かったりと、単純に味だけ見るならほかにもよい店はあるのです。プラスアルファが魅力的。いい音響でR&Bを中心とした洋楽が流れています。

子どもが生まれてからはテイクアウトで食べていたのですが、この日初めて店内にチャレンジ。赤ちゃん連れでも平気ですか?と尋ねると、問題無しと笑顔の店員さん。ソファの席に通してくれました。

我々が席につくと、そのすぐあとに横に家族が座りました。カジュアルな格好をし、キャップを被ったお父さんと黒を基調とした服にびしっと化粧をしたお母さん、そして子どもは3人。幼稚園児か小学校入りたてかな?という子が2人に、一番小さい子は1歳過ぎ。後で話してみたら、1歳4か月とのことでした。親は40代過ぎか半ばくらいでしょうか。赤ちゃん用の椅子&机をお店から出してもらい、時々いや~~などと親に抵抗しながらなにやら食べています。お父さんお母さんはクラフトビールらしきものをジョッキでごくり。すると今度は我々の後ろにも家族連れ。20代後半か30前後に見えるシュッとしたご夫婦と、なんかきれいなベビーカーの中に寝転んでいる赤ちゃん。顔は見えませんでしたが、たぶん0歳児でしょう。こちらも楽しそうにお食事。少し早めの時間であったということもあるのでしょうが、なんとハンバーガー屋を赤ちゃん連れの家族が占拠しました。「ちっちゃいですねぇ。まだ動けないそれくらいが最高に可愛いですよ」などと声をかけられ、こちらも「いやぁ、子どもが何人もいるのも素敵ですねぇ」、「がんばって!」などと隣の家族と軽くおしゃべり。

食事を終え店を出てから、今日は仕事ひと段落の打ち上げだと同じ複合施設のカフェのようなレストランへ。ここは乳幼児歓迎を打ち出していて、必要であれば離乳食も出してくれます。我々のような乳児連れの家族には座敷を案内してくれたりと、とっても子育て家族フレンドリー。なおかつ甘味が美味しいので、カフェ代わりにたまーに使うのです。安いわけではないけれど、長居もできるし、我々が大好きな広々空間だし、何より乳児連れ歓迎なのがありがたい。パフェたべちゃったぜ。二人で一個で大満足(坊は授乳ケープのなかでおっぱいを与えられていました)。

 

 

しかし、楽しい時間を過ごしましたという話だけしたいわけではないのです(楽しかったけど)。この緑豊かな複合施設を歩いていると、本当に子連れが多い。大体みんなきれいな格好をしていて、ブランドの整ったベビールームではお父さんがおむつ替えをしていたり男性が2~3人の子どもを連れていたりと、父親の育児参加もごく普通。ああ、これがこの施設や、場合によっては自治体がターゲットにしている家族像なのだな、と思いました。よくみるカジュアルな格好のお父さんとビシッとしたお母さん。おそらくそれなりに仕事に自由がきく男性と、それなりに収入を得ている仕事のある女性でしょう。政府の施策で、「第3子以降は〇〇!」という打ち出しを見ていてなんじゃこりゃ?と思っていたのです。いや、一人目持つのが大変なんですが、とこちらからすると思っていたので。周りをみていても、そもそも子どもを一人育てるかどうかが身近なカップルの大きな悩み事だったりしています。要するに、我々のようなふらふらとした人間たちではなく、上述の複合施設にくる人たちを支援してどうにかしようとしているのかも、と考えました。都市中間層(の上層)の子育て世帯という群があり、なおかつそれをターゲットにした施設・場があるという、今まであんまり自分が理解していなかった事実を体感したのです。今まで読書スペースとしてしか認識していなかったこの施設、そういう施設だったのか、と。たしかに数は少ないですが、「できれば子どもは3人でも4人でも持ちたい」というような友人も少数はいるんですよね。大体経済的なゆとりがあるか、展望がある人たちですが。

 豊かな緑、きれいな授乳スペース、乳児ウェルカムなお店。とってもありがたい。しかし、ここにはおそらく寄ってこれない人たちがいる気もします。文化的・経済的な壁とでもいうか、こういう場所を居心地がよいと感じる人と、どうにも近づきにくい、自分の居場所でないと感じるであろう人と。いるのは身なりのきれいな家族連れ、カップル、フリースペースやカフェで勉強している大学生が中心です。実際、こういう人たちを対象に施設が作られたのでしょう。駅から歩いて数分の一等地。他方、すぐ近くにある職場の同僚たちは、ほとんどがその施設に足を踏み入れたことすらありませんでした。自分自身は子連れか否か関係なく、緑の多い空間や広々としたスペース、静かな場所が好きですからこういう施設はとてもありがたいのですが、はたしてこの施設と相思相愛な人々・家族というのが日本社会にどの程度の数いるのか。また子育てしていても、「ここは別に居心地がよくない」と思う人たちもいるでしょう。そもそもお金の面でも、ハンバーガー屋やカフェも「最安値」ではない。そういう人たちの存在はこの複合施設にいても当然ながら見えませんが。

自身の状況がかわって、見えてなかったものが見えてきたり。逆に見えてくると、今まで見ていたはずのものの解像度が下がっていく感じがしたり。こういう施設があるのはよいとして、自分たちとしては子どもを3人や4人もつか以前に、1人目を安定して育てられる施策の不足を感じる日々です。育てられる自信がない、子どもを持ったらほかの大事なものを諦めることになってしまう、と子どもを持つことを断念している友人たちもいます。結婚することにした際、何か自治体で援助とかないかなぁと調べてみたら、「記念写真撮れます」みたいなのがホームページにでてきたイラッとしたのを覚えています。結婚すること、一人目を持つことから、まずはきっちり支援していただきたいのですが。

子どもを持つ人と持たない人、子連れでこのような複合施設にくる家族とこない家族と。一つの街にもいろんな人たちがいます。どこかに立つと、またはどれかをターゲットにすると、別の人たちが見えにくくなるものなのかもしれないと思ったのでした。